第6章 第1層~第10層 その5 "天才"
二回、チャクラムを使って彼女―エリーはビルの最上階の部屋に辿り着いた
ガラスを派手に割りながらの入室ではあったが、幸いこの世界ならそう迷惑する人はいない
彼女が何故、一人ここにいるのか
非常に簡単な理屈である―出来るからだ
現在戦闘中のボスは近距離兵装を持つプレイヤーにとってはまさに天敵で、ならば遠距離兵装主体の者達がやるしかない
しかし、並みのプレイヤーにはあのボスと射撃戦を演じるのは不可能と彼女は判断した為、彼女は今ここにいる
ガラス越しにボスが見える位置まで行ってから、息を整える
どうやらビルの内部までは近付いてもギリギリ大丈夫らしいというのを彼女はこれで理解する
改めてガラス越しにボスの前に立ち、やる事を頭に浮かべながら弓を構える
そして迷わず―発射
直後、自身の右にあるガラスから飛び出し自らを空に投げる
チャクラムを射出し、遥か下にある標識に絡ませる
先程まで自分がいた階層がボスのビームに貫かれ、火を吹くがそれを見ている余裕は彼女には無い
標識に着地した時には既に次なる跳躍を始め、もう一度チャクラムを射出―別のビルの高層を目指す
彼女―エリーの思い付いた戦術は非常に単純明快、高速で移動しながら高速で攻撃を続ける
ただそれだけである
しかし、現在の状況においてそれは全く難しいものの筈である
攻性に対して、強力なビームをカウンターの如く叩き込むボス―これにより近距離戦闘で同じ真似をするのは不可能
更に自身の攻撃と同時に回避及び移動をしていなくてはならない
エリーの知る中の人物を比べても自分以外にそれを出来る人物はいない
極めて直感的だが、経験から基づく直感で事実に基づく直感だった