第6章 第1層~第10層 その5 "天才"
ビルの影からボスの方を見る
今だ熱気は立ち込め、猛暑の中に飛び込んだような錯覚を受ける
上空のボスは黙して動かない、ただ浮かんでいる
その下―熱気が歪めた視界のお陰で最初は分からなかったが…人、プレイヤーがいる
しかしその姿は黒焦げで無様に倒れている
しかも気を失っているのか、動かない
(どうする…?)
まだ姿を残している…という事は生きている
しかし、仮にボスの次なる一撃があった際に耐えきれるかは分からない
全力で走れば助けられるか?―それでは彼等の二の舞、黒焦げになるのは私の方だ
(でも…助けないと、あの人達が死ぬ…!)
部長に色々言われたにも関わらず早速これか…と心のなかで苦笑してしまう
しかし…私の決めた事なら…
意を決した瞬間―何者かが私の服の端を引っ張り、私を止めた
「エリー…」
振り向いた先、私の袖を引っ張るエリー
強い力で私を止める彼女の目は、伏せられていて表情の全ては読み取れない
「……絶対駄目」
「でも―」
「駄目」
有無を言わせぬエリーに私は言葉を詰まらせてしまう
ややあって、目を伏せたエリーはゆっくり口を開いた
「今のまま行って、またリリィが痛い思いするのは嫌。だから行かないで……代わりに…」
そのままゆっくりあがる顔
その目は罪悪感と覚悟に染まっていた
「代わりに私が…何とかする」
直後、私の服を離したエリーがチャクラムを射出し上に消えた
「ちょ、エリー!」
彼女は高層ビルと呼ぶに相応しいビルの壁を一回蹴りもう一度チャクラムを射出、更に高層に向かった
「待って…待ってエリー!!」
いてもってもいられずビルの中へ走り出す
何処の階に行くかは分からないが…階段でもエレベーターでも使って追い付かないと…
エリーの行動、先の言葉に何か危機感のようなものを感じた私は、それが何なのか纏める前にエリーに追い付かなければならない、という感覚に従っていた