第6章 第1層~第10層 その5 "天才"
飛び出した私と部長を援護するのはエリー
矢を放ち、敵を壁側に抑える
「標本」
「要らねぇよ、あんなもん」
というような会話が後ろから聞こえる
エリーにシンジ先輩がツッコミを入れたのだろう
普通なら戦闘中なのに気楽な…と咎めが来そうだが、今はこんな雰囲気の方が気が楽であった
敵はエリーの言った標本という言葉通り、足を穿たれている―それも六本全て
「流石、射撃は上手い…なぁ!!」
感心しながら部長が槍を投擲する
武器スキル、ブーストスキルを伴い飛んだそれは見事、敵の胴体に命中―より磔のような状態となった
続くは―私
大分感覚の掴めてきた鎌鼬を斜めに交差させるように放ち、直後に駆け出す
更に壁に押さえ付けた上で、至近距離からもう数撃は叩き込む
そのつもりで真っ直ぐ走り、敵へと近付いた
その時である―
寒気―危機感が働いたのだろうか、直感のように何かが背筋を走った
何か来る…場所は―
「リリィ上!」
「っ!」
エリーの声が響くと同じに進路をジグザグに変える
ついさっき、足や身体のあった所には私の身長の半分くらいに見える―腰辺りまでの大きさの針が刺さっていた
取り巻きか何かがいるという事か
「チッ…」
この状況、走り続けなければ串刺しになるのはこっちだ
自分でも露骨と感じる舌打ちをしながら、針から逃げる
しかし何だ…この誘導感―これが続くと…何だ?
その答えはすぐ出た
磔にされた敵が糸を吹き出した
首を大きく右に反らして、塊に見える糸を避ける
今は駄目だ、今はこの誘導から逃げなくては―
そう方針を変え、行動に移す
部長の槍を敵から引き抜く、が動かさせはしない
脚力にブーストをかけ、壁蹴りの要領で離脱ついでに敵を―
(蹴る!)
少しだけ敵が壁に押し込まれるのを感じながら、私の身体は反転しながら跳ねるのであった