第6章 第1層~第10層 その5 "天才"
包まれた―と言っても、それは身体全部は包めず精々頭だけであったが、それのお陰で誰かが判明した
しなやかさを小さく纏めた肢体
そう言えばさっきの声も聞き慣れた声で―答えは分かっていた
「エリー…」
いつから居たのだろうか
しかし、そんな事はどうでも良かった
一見すれば、体躯の小さい人物に慰めを受けている情けない図かもしれないが、私はそれで…確かに、少しでも安心感を得ているのであった
「ん。大丈夫」
いつもと同じく最低限に近い言葉で放たれる言葉は、非常に単純である種の頼もしさを持っていた
「例え厳しい戦いでも、私が…皆が…させない」
「…うん、ありがと」
エリーの肢体の暖かさと共に言葉が静かに、心に染み渡る
もしかしたら…死神を払う剣は、私一人の剣では無く…誰かの剣と共にあり、互いに払い合うものではないか
そうすれば、お互いもっと死ななくなる
更にそれがもっと広がれば…とは理想論だが、そういう事なのかもしれない
エリーの背中に手を回し、抱き締め返しながらそんな事を考えていた
最近、エリーに諭される事が多い
それだけ、私が不完全な願いのまま戦っている…という事かもしれないし、それだけエリーが強いのかもしれない
凄い娘だ
ただ一つ―
「ん。だから私も…本気を出す」
―小さく、私にしか聞こえぬよう紡がれた言葉が、一層危うげに感じられた