第6章 第1層~第10層 その5 "天才"
「起きたか」
そう言いながら部屋に入る部長はいつもよりも神妙な表情であった
「俺はお前に怒る事と聞く事、それぞれ一つずつある」
椅子に座りながら、じっと私を見つめる目は変わらず神妙で、厳しい
「リリィ、お前どうしてこの前のボス戦であんな真似した」
「あんな真似…って…」
「色々あるけど…一人無視してボスに突っ込んだ事だ」
そこは覚えている
左腕が飛ばされる直前、テスターのトンファー男を助けにボスへ向かったのだ
その際、別の指示があったが私はそれよりもトンファー男を助ける事を優先した
「私は……」
答えに窮する私を前に部長は無言
しかしそれ故に、答えを求められている
「私は、とにかく死ぬのは見たくなくて―」
「それで自分が死んだら、意味はない」
矢の様に放たれた言葉に、私はもう一度口をつぐんでしまう
「一人で突っ込んで、それでお前が死んだら残された俺達…何よりお前自身はどうだ?」
「………」
答えが返せない
そんな私に部長は一息吐いて、再度口を開いた
「何が…お前の願いだ?」
「……死にたくない…です。でも…願いの先がたった一人なんてのは…もっと嫌です」
それが今の私の願い―
たった一人で生き残れない私の願いを静かに聞いた部長は、ややあってから唐突に、軽く私の頭に拳骨をぶつけた
「そう思うのなら、例え誰かを助けるのだとしても…一人でやるな。俺でもシンジでも使え。そうすれば、あんなにはならずに済む。俺達全員がお前を暴走させはしない、絶対にだ」
部長の言葉は強く、部長本人も自身に誓っているようにも聞こえた
しかし私には、やはり皆に心配をかけたと感じられ、それを噛み締めるように静かに頷いた
穏やかに変わった雰囲気
そんな中、今まで口を閉じていたシンジ先輩が漸く口を開いた
「ところでリリィ、お前…あの時ボスを倒したアレは何だ?」