第5章 第1層~第10層 その4 "ここまで"
左腕をもがれた彼女―リリィの呼吸は相変わらず荒い
白い彼女の地毛は彼女の呼吸に合わせて揺らぐ中、彼女の瞳が次第に何かを見据えだしたのを彼女を支えるミヤコや他の面子には分からなかった
当然である
ボスの攻撃により左腕を失うという欠損状態になり、未だに回復の兆しは見えない
更にそれに対処する術を持たない彼等は近くの他者を頼るか、自分達に攻撃やら何やらが飛ばない事を祈る他無かったのだから
一つ、また一つと部隊は切り替わりトンファー使いの少年の力量ともあいまって、戦局は終盤に差し掛かっていた
その時である―
「っと…」
時折膝の力が抜けるリリィを何とかミヤコは支え直す
左腕を無くした彼女は完全にミヤコに身体を預けている
残った右手を背中からまわし、未だ終わらぬ苦しみと戦っている
この第六層より出現した新回復アイテムが無ければこれは時間経過以外に治す方法は無い
今この瞬間、何も出来ない自分に文字通り無力感を感じていた所―それは起きた
リリィがミヤコの身体を軽く押し、ミヤコの支えから逃れたのである
右手には先程までミヤコが代わりに持っていたリリィの片手剣
「ちょっ、リィ…ちゃん…」
危ないとでも続く筈のミヤコの言葉は、続かなかった
右腕だけとなったリリィは、激痛で意識が朦朧としている筈なのに瞳だけが輝いている
視線の先は、ボス
そして―
「ゔぅぅあ゙あ゙あ゙あ゙ぁぁぁぁぁ!!!」
普段の彼女からは絶対に有り得ない絶叫を以て"それ"は始まった