第5章 第1層~第10層 その4 "ここまで"
あのトンファー男、さっきよりも阿呆みたいに攻撃に集中している
その様はまるで特攻で、事実彼は先程よりもボスの攻撃に晒されHPを削っている
「どうしたどうした、そんなもんだっけか!俺の防御下げてこれかよ、もっと撃ち込んでみろ!!」
故に状況は明らか―至極単純だ
彼は確かに攻めている、攻めてはいるが元々あるHPの全体量がボスとは違う故、自動的に彼がジリ貧となる
という事はこのままならばいずれ彼は死ぬ
しかし現状は有利だ、このまま彼を利用すれば、結果彼は死んでも私達は勝つ
私は当然、部長や皆も死なない
でも、何故だろうか
私はそれを"気に入らない"と感じている
「ケンタ、リリィ!一度元の班に合流だ、もう一回ボスを狙う!」
ボスから少し離れた部長が叫ぶ
前に出ている面子はボスの斜め後ろの位置を維持している
私とケンタがそれぞれのルートで駆け出す
エリーの援護もあり、それなりに安全に進めてはいる…いるのだが…
ちらとトンファー男を見る
相変わらず攻めているが、同じだけ攻撃を当てられている
それでも私達よりか相当鍛えている為、タフだ
しかしそのタフさも、半分を下回っている
さっき彼が言っていた通り、武器スキルを食らった際に付いた防御低下の状態異常も効いているのだろう
となると彼はやはり死ぬ
事実今彼はボスの右手に攻撃を撃ち込んだが、左手に持った両手剣が既に彼に向かっている
放置すれば彼は真っ二つだろう
死ぬ―その言葉が私の頭の中を反芻されていく
やはり気に入らない
確かに私は死にたくないし、少なくとも私の知る人達には死んで欲しくない
だけど、その願いの為に生まれる犠牲を私は…私は…
(認めたくない!)
そう思い付いた時には方向転換していた
「リリィ!!」
ボス越しに叫ぶ部長の声を無視し、ボスの正面へ駆け出す
彼は気に入らない、間違いなく人間的に気に入らない
「それでも死ぬのはもっと気に入らない!!」
彼の横に辿り着いた私は武器スキルと腕力ブースト、今使える足腰の筋力全てを用いてボスの両手剣を寸での所で抑えた