第1章 熱
ちゅうっ、とわざとらしく音を立てられ少し恥ずかしい。けれど、それだけで終わる彼でないのはよく知っている。額の次は左瞼へ、左瞼の次は右瞼へ、右瞼の次は鼻へ、鼻の次は左頬へ。そこからは餓えた獣のように、彼は私の左右の頬を行ったり来たりと口づけを繰り返し落としてゆく。焦らすように時々にだけ軽く触れ合う唇が、何処かもどかしい。しかし私の体を熱くさせるには十分な行為だった。
それでも人間の「慣れ」と言うものは恐ろしくてたまらない。永遠に続いて欲しいと願うような優しいキスの雨を味わっても、時間と共に更なる深い愛を求めてしまう。惜しみなく注がれる接吻が物足りない訳ではないが、体の芯が「もっと、もっと」と別の熱を欲しているのを感じ始める。その時点で私は薄く目を開いた。それは私からの「お願い」の合図。キスする位置を常に確認している彼は、すぐに私の目配せに気付いてくれる。再び互いの視線が強く交じり合い、私の体を支えていた彼の手は、私の衣服へと延ばされた。
真っ先に手をつけられたのは、前に十個ほど取り付けられているボタン。上から下へと丁寧に外されて行くそれは、下着を付けていない私の素肌を徐々に露にさせた。ボタンが全て外されれば、そのまま私のパジャマを肩から撫でるように降ろした。シルク混のそれは光沢のある見た目通り、とても滑り良く私の体から離れる。最後は袖から自主的に手を抜いた。