第1章 熱
顔の火照りが冷めない。いや、むしろ熱が上昇する事はあっても、冷める事はしばらくないだろう。こんなにも幸福を感じられたのは果たしていつぶりだったか。仕事で忙しく、滅多に会えない彼の腕の中にいる。それだけでも心は満たされると言うのに、彼の優しいキスが更なる至福をもたらしてくれる。
夜は深いが、月明かりが淡くカーテン越しに差し込む。お互いを見つめ合うには十分な光の中で、彼は私と共に布団の上で向かい合った。正直なところ、端正な顔をした彼に見つめられるのは恥ずかしさがある。けれども、鋭くも何処か熱っぽい彼の視線でとろけそうになる感覚がクセになってしまっている以上、目が離せる訳がなかった。
何も喋らず、ただ視線を交わらせる。しかし表情が変わった訳でもないのに、どこか彼の雰囲気が事の始まりを告げているようだった。そしてその直感通り、彼は動き出す。彼の顔が私に近づけば、それは「目を瞑りなさい」と言う合図。素直に両目を閉じれば、彼の大きな右手が私の後頭部に添えられ、彼の左手が私の腰へと添えられる。そのまま動かずにいれば、男らしい分厚い唇が私の額にそっと触れた。