第23章 季節外れの蝉
青峰「こんだけ広いなら一匹はいると思ったが…」
るり「いないもんなんだねぇ…。」
私達は同時に溜息をついた。
セミオは相変わらず"ミンミン"と声を張り上げていた。
私と青峰くんはセミオをじっと見つめた。
「おやおや、こんな時期に蝉とは。珍しいねぇ。」
ふと声をかけられ、私達は同時に顔を上げた。
お散歩中のおじいちゃんが虫かごを覗いてきた。
おじいちゃん「こんな時期に蝉取りかい?」
るり「いえ、この子が一人で可哀想だから二人で仲間を探してあげようかと思って…」
私がそう言うとおじいちゃんは声を出して笑った。
青峰「あぁ?バカにすんなよ!ジジィ!」
おじいちゃん「あぁ、すまん。なんだか可愛くてのう。思わず笑ってしまったわい。」
るり「可愛い…ですか?」
私はよく意味がわからず眉をひそめた。
おじいちゃん「君らみたいな若い恋人達がそんなウブな事をして愛を育んでいると思わなくてのう。」
青峰・るり「こ、恋人!?」
おじいちゃん「鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす。うーん良い言葉じゃのう。」
そう呟きながらおじいちゃんはどこかへふらふらっと歩きはじめてしまった。
るり「…行っちゃったね。」
青峰「あぁ。」
るり「さっきのってどういう意味?」
青峰「あ?俺に聞くなよ。」
るり「そっか。ごめん。」
セミオも鳴きつかれたのか静かになり、
シーンとした沈黙が訪れた。