第10章 醜い自分
「ただいま…」
家に着き、玄関の戸を開ける。
すると、奥の方からお母様が私の名前を呼ぶ。
桜音「時音」
顔を上げると、目の前にはすでにお母様の姿があった。
私の母、緋神子族皇后・桜音。
私と容姿がすごくそっくりで、長い黒髪に桜色の唇と雪のような白い肌。
ただ違うのは、桃色の瞳と、妖怪の姿に戻ると現れる狐の耳と尻尾は、白面金毛の私と違って金色。
とても優しくて、私と蔵馬のことをいつも気にかけてくれていた。
「お母様…」
桜音「燈から話しは聞きました。麻弥さん、無事に家まで送り届けたのね」
「はい」
桜音「……蔵馬とは……」
「……彼にはちゃんとケリをつけました。自分の気持ちを伝えて、あとは……」
言葉が途切れてしまう……。
しかし、お母様はこの先がどうなったかわかったのか、これ以上何も言わなかった。
その代わりお母様は、いつもの言葉を私に投げ出す。
桜音「時音、いつも言っているけどもっと我が儘になっていいのですよ。
自分の気持ちを誰かに伝えることは決して仇になったりしないと私は思うの。
あなたは人の幸せを願いすぎて、自分ばかり辛い思いをさせて…私は心配なのです」
「わかってます…。でも私っ!!」
桜音「時音」
お母様が私の声を遮り、私は押し黙った。
静かになった私の目を真っ直ぐ見て、再び声を発した。