第9章 交差した想い
時音が……大粒の涙を流していた。
幼い頃からどんなことがあっても人前で泣くことはなかった時音。
泣くときは人のいない場所に隠れて声を出さずに泣く。
そんな時音を、オレは何度も見てきた。
その時音がいま、オレの目の前で泣いているなんて…。
驚きを隠せずに、ただただ目の前で泣いている時音を見ることしかできなかった。
すると時音は、スッと右手を挙げてオレの左頬にそっと触れた。
「…時音?」
時音は下へ向いていた視線をオレに移し、ジッとオレの目を見ながら口を開いた。
しかも泣いているのに、無理に笑って…。
時音「蔵馬……私、蔵馬と過ごせて良かった。
蔵馬と出逢えて良かった。
だからいま、はっきり言わせて…。
私はこの先どんなことがあっても、あなただけが好き。
幸せになってね、蔵馬ならきっと…私より良い女(ひと)見つかるから…」
「何…言ってるんだ…」
オレの問い掛けには答えないつもりか、時音はオレの頬に触れていた手を、そっと降ろす。