第9章 交差した想い
怒るのも無理ないか…。
そんな自分の考えと裏腹に、時音は意外な言葉を返してきた。
時音「…ごめんね、蔵馬」
「…え?」
時音が謝る理由が解らなかった。
普通、ココはオレが謝るところじゃないのか…?
訳が解らず驚いていると、時音がゆっくりと話し出した。
時音「私…蔵馬に捕らわれ過ぎていたのかも…。
こんな…可笑しなマネして…
はっきり言って、蔵馬からしても迷惑だよね…」
「…何を…言って…」
時音「…私ね知っていたの。蔵馬が麻弥のこと、好きだったの。…知ってた」
「っ……」
まさかそこまで知られていたとは…。
流石幼馴染みというところか。
しかしいつから…。
そんなオレの心を読み取ったのか、時音は再度話し出す。
時音「あの花火大会の少し前から気づいていたの。
蔵馬と麻弥が話しているのを見掛ける度に、蔵馬の瞳(め)、とても…優しかったから…私と話しているときと違って…」
「え?」
時音「蔵馬あの頃から私のこと避けてたでしょ?
私が話し掛ける度に、迷惑そうな顔してたから…」
「っ…!!」
時音「だから花火大会の時に、賭けてみたの。
でも…誘ったときも嫌そうな顔して、屋台回ってるときも…楽しそうじゃなかった…」
「………」
時音「だから、『もう秀一とはいられないかな…』って思って…。
蔵馬と、距離をおくことにした」
「……時音。どうしてそこまで…」
全ての話を聞き終え、半ば思考が麻痺したまま問い掛けた。
時音「……秀一には、蔵馬には幸せになってほしい。
もう蔵馬にとって私は、昔の女なのかもしれない。
私のこと、吹っ切れたのかもしれない。
けど、悔しいけど…私は人の心を決めつけることができるわけでもない。
だから、自分が正しいと思う道を決めて、蔵馬に幸せになってほしいと選んだ」
「…………」