第37章 忍び寄る影
凛姫「久しぶりだね、時音。あれから何十年経ったかなぁ」
金髪に少しウェーブのかかった長い髪を靡かせ、その女は時音の前に現れた。
細められた藍色の瞳は、冷たい目をしている。
「どうしてアンタが人間界にいるの?」
凛姫「フフ…。それはねぇ、時音を殺すため」
楽しそうに口角を上げる女・凛姫に、時音は振袖の中に手を入れ呪符を取り出し構える。
凛姫「安心して。まだ時音と戦うつもりはないから」
「………どういう意味?」
時音が問うても、凛姫は不敵に笑うだけだ。
すると、時音の目の前に一匹の妖狐が姿を現した。
「っ!」
凛姫「あらあら。貴方が出てくるなんてねェ……澄」
そう、燈と並ぶもう一体の式神・澄だ。
相変わらず無表情で何を考えいるか解らないが、一つ解るのは、凛姫に対して敵対心が剥き出しという事だ。
澄「お前と会うのは初めてだな。酒呑童子の生まれ変わり、凛姫」
凛姫「フフ、会えて光栄。だけど残念だねぇ。澄、まだ時音の事を主と完全に認めた訳じゃないみたいね。
こんなのがあたしの敵だなんて」
「言ってくれるじゃない。けど、私はアンタに負けるつもりはないわ」
凛姫「それは勿論、あたしもだけどね」
沈黙がその場にいる全員を包む。
数秒経ち、動いたのは凛姫だった。
凛姫「さて、あたしはそろそろ戻るわ。今日は顔合わせなだけだしね。
時音、いつかこの手で…お前を殺す」
静かにそう告げ、凛姫は姿を消した。
彼女が消えた場所を眺めながら、時音は大きく溜息を吐く。
「澄。私はまだまだ未熟だけど…でも、もっともっと強くなるから。
だから、今のこんな私でも…力を貸して欲しいの」
澄の目をジッ見つめ、澄も時音を見つめ返す。
時音の瞳は揺ぎのない、意志の篭った強い目をしていた。
それを感じ取った澄は、何も言わず歩き出す。
了承の合図だ。
「ありがとう、澄」
澄「早くしろ」
そんな澄にクスっと笑い、時音は澄と共に、再び雪菜の元へ向かった。