第34章 不吉の予兆
彼女が戦っている時でした。
鬼の一瞬の隙をついて、彼女は刀を突き刺しました。
しかし、刀に突き刺さっていたのは、鬼ではなく…男でした。
彼女は頭の中が真っ白になりました。
鬼は彼女によって負わされた怪我によって、体力は残り少なく、一度姿を消しました。
怪我はかなり大きかった為、暫くは大人しいことでしょう。
しかし彼女には、そんなことを考える暇はありませんでした。
目の前の出来事に、未だに頭がついていかなかったのです。
何故?どうして鬼を庇ったのですか?
男に必死で問い掛けました。
男は血に染まった手を、彼女の頬に滑らせながら言いました。
ここでお前も私も生き残ってしまえば、私はお前を憎んでしまう。お前を殺してしまう。
当然だ。私は妖怪が憎いのだから。
だがお前を殺すなど、そんな事が出来るわけないだろう。何故なら―――
お前を…愛していたから。
その言葉を最後に、パタリと下ろされた手は、動くことはありませんでした。
彼女が何度呼び掛けても、何度体を揺すっても、何の変化もありません。
変化があったのは、男の身体がどんどんどんどん氷のように冷たくなるだけだったのです。
彼女は鬼を恨みました。
あの鬼さえいなければ、こんなことにはならなかった。男を失わずにすんだと。
その時、腕に何かが突き刺さりました。
彼女の腕には、一本の矢が刺さっていました。