第34章 不吉の予兆
そして彼女は術を解いて、本来の自分である妖怪の姿へと、形を変えました。
男は目を疑いました。
自分の最愛の人が…自分が最も憎むべき存在である妖怪だったことに。
男の心中を知りながらも、彼女は男を守る為に、鬼の元へ近づいて行きました。
そんな彼女の背中を見つめながら、男は葛藤という名の感情に覆われていました。
彼女を愛し続けるべきなのか。彼女も同じ妖怪として憎むべきなのか。
しかし、人間の中に良し悪しがあるように、妖怪にもあるのではないか。
いや、考えてみろ。現に目の前の鬼は国を支配しようとやってきたではないか。母を殺した時と全く同じ光景だ。
それで、何人もの人間が命を落とした?
それに彼女も、今まで私に正体を隠してきたではないか。私が妖怪を恨んでいるということを知っているにも関わらず。
だからこそ正体を隠し、彼女も国を襲うためにやって来た妖怪の一人だろう。
男は自問自答を繰り返していました。
そうしている内に、言いようのない怒りが込み上げてきたのです。
しかし目の前で蹴り広げられている、二匹の妖怪の戦い。
彼女が戦っている姿を見て、思い出したのです。
先程の彼女の発した言葉を、彼女の流した一粒の涙を…。
そして、その意味を考えました。
考えて考えて、沢山考えました。でも結局、答えは出ませんでした。
けれど、男は違う答えを見つけました。