第34章 不吉の予兆
ある時、国で大きな火事が起きました。
国中が大混乱に陥る中、彼女は男と共に逃げました。生き残る為に。
二人の周りには、沢山の男の兵士達がいました。
真っ赤な大火が燃え上がる中、彼女達の逃げる先には、一つの影が見えました。
その影はこちらに向かってどんどん姿をはっきりしていきます。
そして彼女達の前に現れたのは…
鬼でした。
鋭い角。氷の様に冷たい目。そして、鬼に纏う不気味な妖力は、一瞬にしてその場の者達を恐怖へと突き落としました。
しかし、彼女は怯むことはありませんでした。
理由は勿論、自身も妖怪だからです。
だが、冷や汗は止まりませんでした。
ここで自身が妖怪になるわけにはいかなかったのです。
男がいるからでした。
今ここで自分が元の姿に戻れば、男に恐れられてしまう。
そんな理由だけではありません。
男は妖怪に強い恨みをもっているからです。
その証拠に、男は物凄い剣幕で目の前にいる妖怪を睨んでいました。
男が妖怪を恨む理由。
それは、最愛の母が妖怪に殺されたという出来事があったからです。
彼女が元に戻れば、自分は男の恨みの対象になってしまいます。
しかしここで何もしなければ、いずれ皆殺されてしまう。
彼女は悩みました。
最愛の人を守るために、最愛の人の敵になるか。
最愛の人と共にいることを選ぶか。
そして、彼女が選らんだ結論は…
最愛の人を…守る。
そして彼女は男から離れ、鬼の元へ歩いて行きました。
後ろから何度も男に止められました。
行くな!!と。
その言葉に、彼女は振り向き微笑みました。
そして…
…ごめん…なさい。
目から一粒の涙が流れました。
それは、彼女が人間として男に発した最後の言葉でした。