第32章 儀式
「っ…………あなたが、澄…?」
澄「…………」
私が話し掛けても、彼は黙って水面の上に立ったまま私を見ているだけで、微動だにしない。
すると後ろの方から、燈の声が聞こえた。
燈「久しいな、澄。六百年もの間眠っていた感想は?」
澄「………別に、どうもしない」
低く澄んだ声が、何故か鮮明に聞こえる。
燈の方へ向いていた目線が、私の方へ戻る。
「……………」
澄「………………」
互いに見つめ合い、沈黙が流れるだけ。
すると彼は再度燈に目線を動かし、口を開いた。
澄「………私は認めない。コイツが新たな主になるなど」
「………え」
認めない…?
いきなり何を言って…
燈「澄、姫君を見たばかりなのに、判定を出すのは早すぎないか?」
澄「…………確かにこの娘は、玉藻の生まれ変わりだ。それは間違いない。
だが、どんなに玉藻が転生し、新たな形として生まれてきたとしても、そいつに記憶がなければ意味がない」
燈「………それだけか?お前が玉藻様を大切に想っていたのはわかるが、姫君は姫君に変わりない。
それが例え、玉藻様の生まれ変わりでも、姫君は姫君だ」
澄「…………」
彼は…澄はきっと、玉藻のことが本当に好きだったんだ。
自分を生み出した親として、また主として…
だからきっと、いくら私が玉藻の生まれ変わりでも、私は玉藻じゃないから…
きっと彼は、認めることができないんだ。
私を、新たな主として…
だったら私に出来ることは……