第1章 甘い野獣(銀時甘裏)
2月14日午後7時。
俺は万事屋銀ちゃんのリビングで一人、彼女が来るのを待っていた。
玄関を開ける音とともに、
「こんばんはー」
と声がする。
俺ははやる気持ちを抑えつけながら、わざとゆっくり玄関に向かう。
赤くて裾の短い着物にブーツという格好の、何も知らない彼女が笑顔を向ける。
頬が高揚して見えるのは、外が寒いからだろう。
「銀さん、約束のチョコレート、持ってきたわよ」
「おー、ありがてェな。とりあえず上がれよ。寒かっただろ?」
「うん。おじゃまします」
自分で約束とりつけておいてアレだけど。
アンタ無防備すぎるよ。
バレンタインデーの夜に、そんな男をそそるような格好して、男の家に一人で上がるだなんてさ。
これから何してもいいんだって、男は思っちゃうよ?
甘いモンならなんでも好きな俺だけど。
マカロンでも、
金平糖でも、
マシュマロでもなくて。
今夜はチョコレート。
だけどな。
でもな。
チョコレートより、もっともっと甘いモン、いただいちゃっていいよな?