• テキストサイズ

触れてみたかったから(うたプリ)

第1章 1


「ありゃー音也くん。ここのところおうちに変えれてない?それとも楽器に触れてないだけ?」

店長が楽しそうにギターを眺めていた音也に声をかけた。

「へ?何かありましたか?」
「ありあり!おおありだよ!この前メンテナンスしてあげて嬉しそうにツヤツヤと元気だったのに、今は楽器が寂しいって言ってるよ?」
「えぇっ!?余語さん、どういうこと!?」

音也が大げさに驚く。

「ほらこれ。ネックが結構反っちゃってるでしょ?で、反っててビビっちゃったから弦高をあげた。コレじゃあヘッド側が浮きすぎちゃって弾きにくいよね。
この季節、気温や湿度の変化があるから多少は仕方ないんだけど、これだけ酷いのはお部屋の温度・湿度の管理が全くできてない証拠じゃないかな?
しかもこれ、綺麗なエボニー指板だったはずなのにボロボロだ」
「あぁ…ほんとだ…ごめんよぉ…」

音也が叱られた子犬のようにヘタリと床に座り込んだ。
一人ひとりのお客様と、相棒たる楽器の様子は常に把握しているように。
そこから楽器屋として、リペアマンとしての信頼を得ることができるのだ。
今の店長と音也がまさにそんな信頼関係だ。

「用事は済んだかな、レディ」

いつのまにかカウンターに来ていた神宮寺氏に声をかけられ、ハッと現実に戻る。

「あ、ごめん。もう決めた?」
「うん。これにするよ」

マウスピースにはめてあるシックな黒いレザーのリガチャーだ。

「うん。いい選択だね。私も聞いててそれが一番君にあってると思ったよ」
「レディのお墨付きなら間違いないね」
「じゃあお会計するから、そのリガチャー外して楽器片付けながら待っててね」

神宮寺氏からお買い上げのリガチャーを受け取り、金属部分を手早く磨く。
在庫の引き出しから化粧箱を取り出し、綺麗に梱包してからリードをまとめておいたお客様用カゴに並べる。
それを持ってレジまで足早に向かい、テキパキとレジを打った。

「そういえば君、お仕事はどうなの?」
「おかげさまで、撮影の仕事はよくくるかな。毎日忙しくてね」
「ふーん…は、おまたせ。お会計は…」

そう言いながらチラリとカルトンを見ると、そこには諭吉さんが3人。

明らかに多い。

/ 44ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp