第1章 1
「はい。確かにお預かりしました」
私は預かった弓を店の備品の弓専用のケースにしまい、預かり伝票を貼り付けた。
「届いたらすぐに連絡するね」
「おう!よろしくな!」
「あ、それから雑誌。忘れずに持って帰ってね」
カウンターの机に放り出してあった雑誌を翔くんに手渡す。
「あ、いけね。ありがとよ」
彼は雑誌を受け取ってヴァイオリンケースにしまいこんだ。
「あれ、翔くんもう帰っちゃうの?また来てね」
店長がリペア台からこちらに顔をのぞかせた。
「これから仕事なんだ!また来ます!」
ショッキングピンクカラーのヴァイオリンケースを抱えて元気よく店を出て行った。
カラン…
「そっか…。もう卒業して、プロなんだよね」
なんだか感慨深いものだ。
早乙女学園に在籍している子は、先生からの口コミを通じてウチの店に来ることが多い。
来てくれる子がその後もプロとして活動できているという話はそう多くは聞かない。
プロになったとしても、ウチに足繁く通ってくれる子は更に少ない。
小さい店なのだ。品揃えなどは大きな店に敵わないこともある。
だけど、小さい店だからこそ、人とのつながりを大切にしたいのだ。