第5章 5
商店街を抜け、森を歩く。
きっとレンはもう私がどこに向かっているのかわかっているだろう。
それでも嫌な顔一つせずついてきてくれる。
視界が開けた。
月の明かりが薄くあたりを照らしている。
「ハニーもここがお気に入りなのかい?」
「ここはレンと思い出ばっかりだから」
レンの指に絡めた指を解き、鞄を木の根元に置いて池のほとりに腰を下ろす。
突然のデート。くすぶる聖火を移された場所。
彼の音色が私を呼んだ場所。移された聖火が表すのは、恋だと気づいた場所。
レンが私のすぐ隣に腰をおろした。
私の肩に手を回し、不器用な手つきで抱き寄せる。
少し前の私なら抵抗していただろうか。
「レンの印象が少し変わったような気がするの」
「どんな風に?」
二人は目を合わせず、お互いの声が震わせる体の振動を感じ取る。
「こんな不器用に、大切そうに抱き寄せる人だとは思わなかったよ」
「どうにも、ハニー相手だとどうやって触れていいかすらわからないみたいだ」
「触れてみたかったのに?」
「触れてみたかったからこそ、かな」
肩に回された腕に少しだけ力がこもり、すぐに解かれた。
私は池を見つめるレンの背後に回り込み、大きな背中に抱きつき、首筋に顔をうずめた。
髪から香るシャンプーの清潔な香りと石けんの香りのなかに、私をクラクラさせるレンの香りが混じる。
「好き、だよ」
絞り出した声は今にも消えそうで自分でも想像していた以上に掠れていた。
レンを拘束する私の腕に、柔らかくて少し湿った感触が降ってきた。
「ハニー、ここが俺の部屋や君の部屋じゃなくて本当によかった」
彼は優しく笑いながら、私の腕を解かせ、こちらに向き直った。