第5章 5
スタッフルームに引っ込み、エプロンを脱いでハンガーに引っ掛ける。
ロッカーの中の鞄を掴んで急いでスタッフルームを出た。
「お待たせ」
「お疲れ様、ハニー。行きたいところって?」
「まぁ、ついてきたらわかるよ。飽き飽きしてるかもしれないけど…」
私は乱れた襟を整え、斜めに下げた鞄を掛け直した。
「すみません、店長。お先に失礼します」
売り上げ記入用紙に書き込みをしている店長に声を掛ける。
「うん、楽しんでおいで。レンくん、またきてね」
店長は柔らかい笑顔でヒラヒラと手を振った。
「ありがとうございます。また来ますよ」
表玄関から店を出て、靴のつま先を鳴らす。
「さ、行こうか」
「ハニー、忘れ物」
何か忘れ物をしただろうか?私の数歩後ろにいたレンを見ると、左手をヒラヒラと振っている。
「あー…」
一瞬躊躇したが、黄昏の闇に紛れてさりげなくレンの指に自分の指を絡めた。
その手指のあたたかさに、じわりと体温が上がり、鼓動がはやくなる。
「なんだか恥ずかしいものだね」
「そうかい?俺は幸せだけどな」