第5章 5
土曜日夕方、閉店間際。
カランカラン…
「やぁ、涼子」
「いらっしゃい、レン。待ってたよ。もうこないかと思ってヒヤヒヤしちゃった」
「ごめんごめん。仕事が伸びちゃってね」
私はカウンター内にあるリペア済と書かれた棚からシンプルなサックスケースを取り出す。
「はい、今日が受け渡し日。間違いないね」
「あぁ。君とのデートを取り付けたのがちょうど一ヶ月前。忘れるわけがないよ」
そんなこともあったね、といいながらケースを開けて中身の確認をしてもらう。
愛しい香りが鼻をくすぐる。
「試奏していく?とりあえず歪みは直しておいたけど、タンポの調整具合はやっぱり人それぞれだし、もし気に入らなければ直すけど」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「はい。それなら向こうのリペア台でやろうか」
私は彼のサックスケースを丁寧に閉じ、サックスケースを持ってリペア台まで案内した。
レンがリードをくわえながら手早く楽器を組み立てる。
「リードとリガチャーはどう?いい感じ?」
「ああ。とってもいいよ。このリードとリガチャーで子羊ちゃんに曲を聞かせたら、ピッタリの音色だって、とても喜んでくれたよ」
「そう、それは光栄」
楽器を組み上げ、レンはストラップに楽器をかけた。
ゆっくり調子を確かめるように息をいれ、小さな音から一音ずつ確かめるように鳴らし始めた。
「おー。よく鳴るね。楽器の疲れが取れて、のびのびと歌っているみたい」
いつの間にか店の奥からでてきた店長が私のすぐ横でレンの試奏の様子を聞いていた。
「いい調整ができたんじゃないかな」
店長は嬉しそうに私に微笑みかけた。