第4章 4
クラクラするような魅惑的な香りが鼻をくすぐる。
「ごめん、そんなに思いつめてしまうなんて思わなかった」
彼は座り込んだ私を背後から抱きしめた。
とても強く、荒々しいほどの力で。
「バカ!この後に及んで抱きしめたりなんかするな!神宮寺バカレン!っていうか痛いし!バカ!」
ジタバタと暴れるが、強く抱きしめられた体はびくとも動かない。
「バカは私だよ、バカ…。なんで素直になれないの…」
抵抗する気力もなくなり、確かな意思を持って、涙が溢れ始めた。
「絶対に泣かせたくない、笑顔にしてあげたいって、そう思ってたんだけどな」
かすれた声で彼がいう。
「早速泣かせちゃって…ダメな男だね」
彼はゆっくりと抱きしめていた腕をほどいた。
ボロボロと溢れ続ける私の涙を、大きな暖かい手で拭う。
いつだったか、私の目の下のクマを撫でたような慣れた手つきではなく、大切なものを不器用ながらも繊細に扱うような手つきで。
「ねぇ、あのとき、ここで触れたくないのって聞いたよね」
「あぁ…そんなこともあったかな」
ふぅ、と息を吐き、彼の吸い込まれそうな青い瞳を見つめた。
心の奥の柔らかい綿のような部分はすべて燃え移っていて。
「叶うなら、触れてみたいと思うよ」
私はゆっくりと彼の頬に手を添えた。
心の奥の火種はもう止められないほど赤々と燃えている。