第4章 4
『…逃げないの?』
悪い気はしなかった。
『だから?…好きになって、付き合っちゃ、ダメってこと?』
せっかくつかみかけてる夢をなんで私なんかに、
『触れてみたかったから』
『涼子は俺に、触れてみたくないの?』
どうしてそんなことを、
「…ちょっと休憩いってきます!」
「はーい。いってらっしゃい」
神宮寺レンが店を出てからだいぶ経ってしまった。
商店街の通りを一通り走り回ってもいない。
どこにいってしまっただろうか。
ひゅるる。
乾いた風が髪を撫で上げる。
風の中に、情熱を秘めた上品な色気と、拗ねたような響きの混じった音色が聞こえた気がした。
私は記憶を頼りに森の中を走った。
エプロンの裾がバサバサと走る足の邪魔をする。
「…もう!邪魔!」
私は走りながらエプロンを取り、適当に丸めて小脇に抱えた。
久しぶりの運動は体に堪える。
息切れが激しい。
ワッと視界が開けた。
いつかみた小さな池が、昼間の光を受けて青く輝いている。
「涼子…?」
「見つけた…!私の、上得意様…神宮寺レン…!」
私は息を切らしながらズカズカと神宮寺レンに近寄った。
「いつまでも、からかわれて、遊ばれるような!…そんな人間じゃないんだから!だいたい、なにその音!駄々っ子がブーブー拗ねてるみたいな音だして!そんなに楽器が吹きたいなら、全体調整くらいは即日できるって言ったよね!なんでわざわざ一ヶ月も置いておくの!」
神宮寺レンの足元で、へたりと座り込んだ。
「苦しく、なるだけだったよ…」