第3章 3
「は?」
「デートしてくれたら許す」
「許すって君…」
この男、不機嫌オーラを出して謝らせることすら計算だったのだろうか。末恐ろしい。
許すもなにも、勝手にむくれていたのはそっちだ。と私は思っている。だれか客観的に指摘して欲しい。
誰かが指摘したところで結局なにも変わらないのだろう。
「はぁ…いいよ。いつなの」
デートの約束でこの場が収まるならこの際なんでもいい。
私は適当に了解を出した。
「1ヶ月後に」
「あ…そう」
ずいぶんと先の予約だった。
あのときよりは配慮がある。
「じゃないと、余語さんが困る、だろう?」
「まぁ、確かに。君にしてはずいぶんと配慮があるね」
「やだな、レディの予定を優先するのは当然さ」
「ゴールデンウイーク最終日のアレはなんだったんですかね」
「あはは、そんなこともあったね」
神宮寺レンは心底楽しそうにリゾットを一口食べた。
「そんなこともあったねって…」
神宮寺レンはすっかり上機嫌のようだ。
山や女よりも気が変わりやすいのではないだろうか。
パチッ、
心の奥の火種がすこし爆ぜたような痛みを感じた。
「どうしたの、レディ。早く食べないと冷めちゃうよ」
「あー…そうだね…ハハ…」
どうしてこの小さな小さな火種は、消えるどころか隙あらば燃え上がろうとするのか。
いったいこの火種はなんなんだ。
夕日が池を撫でたあの日、神宮寺レンから首筋に移されて、心の奥にくすぶり続けるしつこい火種は。