第3章 3
「こんな小さな楽器店にこんな麗しいレディがいるとは思わなかったよ」
預かり品のトランペットのリペアをしていると、唐突に声をかけてきたのだ。
驚きのあまり、こぼさないようにと慎重にガーゼにとっていたリグロインを楽器にぶちまけそうになったのが彼との出会いだった。ゆえに彼の第一印象は最悪である。
「レディ、ぼーっとしてなに考えてるの?俺に見とれちゃった?」
「君の第一印象は最悪だったなーって思い出してて」
困っちゃうな、と神宮寺レンは苦笑いをした。
「あの時修理してたトランペット、龍也さんのだったんだよね。最近こないけど、取締役とか芸能活動とか先生とか忙しいんだろうなぁ…楽器、元気にしてるかな」
そうひとりごちながらぼんやりと水を飲んでいると、ウチの上得意様は不服そうな顔をしていた。
どうしたの、と声をかけるのもはばかられるくらい苦い顔をしている。
私はなにも言えずに、運ばれてきたランチに手をつけた。