第3章 3
「こんにちはー」
私が挨拶をすると、喫茶店のマスターが厨房から顔を出した。
「いらっしゃい、涼子ちゃん。…あら?レンくんまで。久しぶりねぇ」
マスターが母性あふれる柔らかい笑顔で嬉しそうに出迎えてくれた。
「うふふ…奥の席で待っててね。ランチでいい?」
「はい、ランチ二つお願いします」
私は妙な居心地の悪さを感じながらマスターにランチを注文した。
「上座へどーぞ」
「おや、悪いよ。ここはレディファーストさ」
「私にとってあなたは大事な上得意様なので」
神宮寺レンはすこし不服そうな顔をしながら素直に奥のソファー席に座った。
「まだ俺を客としてしかみてくれないのかい?」
「お客様以外にどう見たらいいんでしょうか」
「…意中の人とか」
あの日焦がされた心の奥の火種がチリチリとうずいたような気がした。