第2章 2
「話せば話すほど、一緒にいれば一緒にいるほど、もっと。と求めてしまう」
静かに楽器を取り上げられ、ケースの中にしまわれてしまった。
彼はゆっくりと私の首元に顔を埋めた。
彼の髪からは優しい香りがする。
クラクラとしてしまいそうな。
体温がじわりと上がる。
肌の触れ合った部分がチリチリと灼けるようだ。
「あの…これは、シャイニングさんに怒られる案件では」
「他のことは考えないで
…しばらく、こうしてて」
もうどのくらい時間が経ったか。
「本当はもうちょっと後に君をデートに誘うつもりだったんだ」
あまり口を開けていないような、くぐもった声で彼がいう。
吐息が首筋を撫で、なんだかくすぐったい。
「車も、ヘリも、素敵なレストランも。ちゃんと用意してね」
私は静かに次の言葉を待つ。
「でも、楽器のことに一生懸命で真面目な涼子を見ていたら、どうしても今日、君とふたりきりになりたくなった」
「さっきもそう。すぐに楽器の調子ばかり気にして」
その声は拗ねたような響きが混じっていた。
「ご…ごめん…」
神宮寺氏は大きく息を吸って、私から離れた。
そして私の背後に回り座り込み、ふわりと覆いかぶさるようにハグをした。
「…逃げないの?」
「…悪い気は、しない」
そう。悪い気はしない。なんだかんだ言ってこの常連客はいつも私のことを気にかけていてくれていて、
「それなら、嬉しいな」
ぎゅ、と私を抱きしめる腕に心地よく力がこもる
「恋を、してしまったかもしれないんだ」
彼はそう言って私の首筋に顔を埋めた。
恋。
「…誰に?」
ふふっと首筋に息がかかる。
笑われたようだ。
「く、くすぐったい…」
「はは、ごめんごめん。レディ、それは本気で聞いてる?」
彼は私の首筋から顔を上げて、私の顔のすぐ横に乗り出してきた。
「ま、まぁ…確認とかそういう…」
すると、彼はふにゃりと砕けた雰囲気をすっと落ち着いたものに正した。
「…君に、…涼子にだよ」
すこし冷えてきた風が二人を包む。