第2章 2
そよ風にふわりと吹かれたように、静かな優しい音楽は終止した。
「君がまだ学生だった頃の曲をチラリと聞いたことがあるの」
「へぇ。それは光栄だ。どうだった?」
「ギラギラした情熱的な曲だったよね。でも今の曲は違う。もちろん、そんな情熱的なところは奥底にあるんだけど、もっと落ち着いてて…
一年で人はこんなに変わるものなのかな。何かあった?」
それから、楽器の調子がよくなさそう。
私はそう言って彼から楽器を受け取った。
パタパタとキィを触りながら、調子を確認していく。
「君は…涼子は本当に」
ひゅるる。
春の終わりの風が頬を撫でる。
乾いた風が気持ちいい。
風で少し冷えた頬がふわりと暖かくなった。
視線を楽器からその熱の元に移すと、そこには切なげな顔をして私の頬に手をあてがう神宮寺レンがいた。
「なにか…ついてた…?」
私の問いに答えず、彼は静かに私の目を見つめる。
やめてくれ、とも言えず。恥ずかしい、とも言えず。
私は静かに楽器に目を落とそうとした。
「あ、あの…」
しかし、神宮寺氏の両手で優しく両頬を挟まれ、楽器を注視することを阻まれてしまった。
「不思議な人だ」
ポツリと彼は呟いた。