第2章 2
「あの」
「なにかあったかい?」
「どこへ行くんですか」
「とっておきの場所に」
そうですか。
私は考えることを諦め、おとなしく彼の手が引くままについていった。
「さ、もうすぐだよ」
「ずいぶん森の中を歩かされましたがここは…」
ひんやりとした清らかな水の匂いが鼻をくすぐる。
梢の隙間から漏れだす夕日がキラキラと小さな池の水面を撫でる。
「ここは…」
「学生時代、俺のお気に入りだった場所さ」
神宮寺氏はそう言いながら、ウチの店の袋の中から先ほど買ったリガチャーを取り出し、楽器を組み立て始めた。
「今日は車も、ヘリも、素敵なレストランもなにも準備してなくてね」
彼は苦笑いしながらそういった。
「いつも女の子を誘うときはそんなしっかり準備してるんですか」
「まぁ、そんなところかな」
神宮寺氏が組み上がったサックスをストラップにかけると、ゆっくりとマウスピースをくわえ、静かな優しい音楽を奏ではじめた。
ちらりと聞いたことのある、ギラギラとした情熱的な曲ではなく、ほっとするような優しい音楽。