第9章 確認しなければ
「……何が?」
「いや、その……これだ」
脹相は包装を指差した。
「これしかないのか、と聞いている」
硝子は数秒間、瞬きすら忘れたように彼を見つめていた。
そして、ようやく意味を理解したらしい。
「ああ、これ? 市販のものだよ。検体を採取できるように、ちょっとした工夫をしてあるだけ」
「…………」
「普通に使うだけなら、売ってるもので十分だよ。もちろん、用途に合ったものを選んで、正しく使う必要はあるけどね」
「……っ、市販か」
硝子は煙草を灰皿に押しつけながら、ゆっくりと顔を上げた。
「……あー。もう何個か渡しとく?失敗することもあるだろうし」
「…………ああ」
脹相がそういうと、おもむろに黒い箱を出した。
「これの謳い文句が「厚い、破れない」なんだよ。だからこれなら安心して使っていい」
「そ、そうか」
「まぁ、今後影響が、ないって分かれば、これじゃないものにしてもいいだろうけどさ」
テキパキと硝子はその端をあけて、なにやら
施していく。
「ほら、とりあえずプラスで3つね。もうすぐはっきりした結果が出るだろうし、とりあえずこれで十分でしょ」
「ああ、助かる」
硝子が横目でこちらをみる。
脹相は視線を泳がせながら、しっかりと渡されたものを受け取った。
「あとこれもあげる」
「え?」
「残りだよ、残してても使わないし、持っていって」
「あ、わ、かった…」
「こっちは凝固剤ありだから、検体を取るには向かないから、それだけ気をつけて」
「ああ」
こちらはなんとも言えない気持ちでいると言うのに、家入の方がなんて事のないように言ってくるからドギマギしてしまう。
脹相は耳まで赤くしながら、包装を手に取った。
「……使うかは分からないが」
「へえ? 本当に?」
「……ああ」
「そっかそっか」
硝子の声には、隠しきれない笑いが混じっていた。
「まあ、頑張りなよ。彼女、大切にしてあげて」
「……言われなくても、わかっている」
そう言って背を向けた脹相の耳は、医務室を出るまで赤いままだった。
その背中を見送りながら、硝子は新しい煙草に火をつける。
「……まったく。あの子も大変だねえ」
今度こそ、誰にも聞こえない声で笑った。