第9章 確認しなければ
「あの子も、もう随分と休みなしで研究してるんだろ?あんたのことを調べるのに必死になってさ。久しぶりに早く帰れる日も、そのうち来るんじゃない?」
「……あいつが休めるのは、いいことだ」
脹相は静かに頷いた。
「だが、問題がなくならない限り、俺はするつもりはない」
その言い方は、あまりにもきっぱりしていた。
硝子はしばらく彼を見つめ、それから肩をすくめる。
「まあ、そこは二人で考えればいいけどね」
そして、ふと思いついたように口元を緩めた。
「でもさ。あんたから動かなくても、彼女のほうから『したい』って言われたら断るの?」
「…………は?」
思考が止まった。
彼女から。
したい、と。
脹相の脳裏に、なぜか鮮明な光景が浮かんだ。
自分を見上げる彼女。少し恥ずかしそうに、それでも愛おしそうに微笑んで。
『……脹相、しよ?』
「…………っ」
「……脹相?」
「……っ、こほん!」
脹相は盛大に咳払いをした。
「そ、それは……わからない」
「…………」
硝子は無言で彼を見つめた。
その目が、雄弁に語っている。
――ああ、こいつの決心、あの子次第で簡単に揺らぐな。
「…………」
脹相は気まずそうに視線を泳がせた。
「……何だ、その目は」
「別に?」
「何か言いたそうだが」
「いやあ? 彼女にお願いされたら、どうするのかなと思っただけ」
「…………家入」
「はいはい。わかったよ」
硝子は笑いをこらえながら、資料を机に戻した。