第8章 脹相のやりたい方法で
――俺がしたい方法で、いい、だと?
その言葉が、頭の中で何度も繰り返される。
「……お前は、自分が何を言っているのかわかっているのか?」
「えっ? 何か変なこと言った?」
彼女は不思議そうに首を傾げた。
「変というか……」
脹相は言葉に詰まり、片手で顔を覆った。
彼女は自分がどれほど無防備なことを言っているのか、まるでわかっていない。
自分を信頼してくれているのは嬉しい。
自分の希望を尊重してくれることも、恋人として受け入れてくれることも、たまらなく嬉しい。
しかし、だからこそ困る。
「……脹相?」
「少し静かにしてくれ」
「えっ、どうして!?」
「今、いろいろと考えているんだ……」
彼は深く息を吐いた。
研究のために協力するつもりだった。
彼女の役に立ちたい。それだけだったはずなのに、彼女が自分の希望を聞いてくれると言った途端、余計なことまで意識してしまう。
いや、何なら今までの採取だって随分と自分の要望を押し通した気さえしている。
それなのに、彼女は隣で心配そうに顔を覗き込んでくる。
「もしかして、やっぱり嫌だった?」
「違う!」
思わず声が大きくなった。
彼女がびくっと肩を揺らす。
脹相はすぐに表情を和らげた。
「……すまない。お前が嫌なわけではない」
「じゃあ、どうしたの?」
「お前が……」
そこまで言って、また口を閉じる。
彼女は研究の話をしているだけだ。
それなのに、自分ばかりが意識しているようで、どうにも落ち着かない。
「……俺を信頼しすぎなんだ」
「信頼しちゃだめなの?」
「そういう意味ではない!」
脹相はとうとう両手で顔を覆った。
「……本当に、お前は……」
耳まで赤くなっている彼を見て、私はようやく何かに気づいた。
「……もしかして、照れてる?」
「聞かないでくれ」
「えっ、かわいい……」
「かわいいと言うな!」
珍しく慌てる脹相を見て、私は思わず笑ってしまった。
すると彼は、困ったようにこちらを見たあと、そっと私の手を握った。