第1章 キス
「ねえ、脹相。今まで私が硝子さんのところで何をしているか、ちゃんと話したことなかったよね」
「……家入か?」
「そう。これからは硝子さんのサポートをしながら研究にも携わるつもりなんだけど」
脹相がこちらを向く。
「身体の状態を調べたり、術師の身体に起きる変化を記録したり。硝子さんが治療や研究を進めるためのお手伝いをしたいと思ってるの」
「……そうなのか」
「それでね、ひとつ調べてもらったことがあるんだ」
私は彼の手を握り直した。
「脹相の血に特殊な性質があるなら、触れ合ったときに私の身体にも何か変化が起きるのかってことなんだけど」
「……!」
「もともと、自分の身体の数値は定期的に記録していたのね。戦いや怪我のあとにどんな変化が起きるのかとか、普段と違うところはないか、硝子さんに確認してもらっていたから」
それは、自分で選んだ研究の始まりだった。
術式や呪力、血液の性質。
術師の身体には、まだ分かっていないことがたくさんある。
だからこそ、自分自身の身体を知ることが、いつか誰かの役に立つかもしれないと思っていた。
そして、脹相と恋人になってから。彼が私とのキスに不安を感じていると知り、これまでの記録を見直すことにしたのだ。
「今までの数値と、脹相とキスをしたあとの血液検査の数値を比較して、硝子さんに確認してもらったんだよ」
脹相は言葉を失った。
「……待て。つまり、お前は……俺が不安に思っていることを知ってから、調べてくれたのか?」
「うん。脹相とキスしたくて、今まで気持ちのまましていたでしょう? だから、少しでも不安がなくなればと思って、あとからだけど、今までの記録を見直してみたの」
私は彼の頬にそっと触れた。
「もちろん、唾液そのものを詳しく調べたわけじゃないし、今までの検査で異常が見つからなかったからって、絶対に安全だと断言できるわけでもないよ。でも、今のところ、私の身体に問題のある変化は見つかっていないの」
「……お前は、本当に……」
「なに?」
「俺が原因だが…危なっかしい」
「まぁまぁ」
思わず笑うと、脹相は困ったように眉を下げた。
それから、私の手をそっと握り返す。