第1章 キス
夜、二人で暮らす部屋。
ソファに並んで座っていると、脹相が私の唇をちらりと見て、すぐに視線を逸らした。
その仕草には見覚えがある。
最近の脹相は時々こうなる。
キスをしたいと思っているのに、
あと一歩のところでためらってしまう。
「……脹相、まだ気にしてるの?」
「……ああ」
彼は隠そうともせずに頷いた。
「お前と口づけを交わすこと自体は、嫌ではない。むしろ……もっと触れていたいと思っている」
最後のほうは少しだけ声が小さくなっていて、思わず笑みがこぼれた。
「うん。私もだよ」
そう答えると、脹相は嬉しそうに目を細めかけた。けれど、すぐに表情を曇らせる。
「だが、俺の身体は普通の人間とは違う。血に特殊な性質がある以上、唾液にも何か影響があるかもしれない。今まで何も起きなかったからといって、絶対に安全だとは言い切れないだろう」
「……うーん」
「お前に何かあってからでは遅い。俺は、お前を傷つけたくないんだ」
私は彼の手を取った。
何度聞いても、その言葉には胸がきゅっとなる。
脹相は、私が思っている以上に自分の身体のことを気にしている。だからこそ、彼が抱えている不安を少しでも和らげられたらと思っていた。