第1章 その胡蝶、閨の教育係にて
(壬氏様の閨教育係かぁ───···)
後宮の湯殿にて、は湯に体を沈めながら湯船の縁に頭を預け、立ち上る湯気をジッと見つめながら、幼き頃に一緒に遊んだおささなじみの姿を思い浮かばせていた。
お互い、成長し大人になるにつれて会わなくなっていったが、が後宮へ下級妃として召し上がった頃には、壬氏は男性とも思えぬ程、とても美しく成長していた。
艶やかな紫色の髪、切れ長の瞳と天女のような顔立ち。
見違える程に美しく育った幼なじみは、花に例えるならば花菖蒲のようだ。
王弟の弟だとはつい最近知った、と言うよりかは閨教育係を拝命されたあたり、帝から直接話された。
正直、そんな重要な機密を聞きたくは無かった。
下手して口でも滑らせたら確実に頭と胴体がさようなら、になってしまうではないか···。
「···何で私んだろう」
正直、閨教育係なら誰でも良いでは無いか。
壬氏様の閨教育係なんて、やりたがる人間は山ほどいるだろうに。
「はぁ···」
正直、気が向かないまま、は湯船から立ち上がった。
「姫様、お召し物を」
浴室から上がれば、水蓮が寄越したであろう女官がの体を拭き、香油を体に塗っていく。
甘い花の香りが鼻腔に届き、気分を落ち着かせて行く。
香油を塗られた後は、閨着を着せられて行く。
薄桃色の閨着はに溶け込んだように馴染んだ。
風呂から上がったばかりの白い頬はほんのりと赤く色付いて、唇は紅をささなくとも赤く、黒く澄んだ黒曜石のような瞳は、女官をも魅力した。