第4章 雄英体育祭編
彼女は静かに腰を落とした。
開始の合図を待つ。
隣では、爆豪が獰猛な笑みを浮かべている。
「位置について――!」
観客席が静まり返る。
「よーい……!」
彼女の瞳が、まっすぐ前を捉える。
次の瞬間。
「スタートォォォォ!!」
一年生たちが、一斉に駆け出した。
前方を見る。その先には、約4キロに及ぶコース。
そして――
「コースさえ守れば、何をしてもいい!」
実況の声が響いた瞬間。
「……」
彼女の目が細くなる。
(なるほど)
純粋な走力だけを競う競技ではない。
個性の使い方、判断力、瞬発力、戦略の総合性が重要となる。
最初の出口で、全員が一気に詰まった。
「うわっ!」
「押すな!」
「狭すぎる!」
大勢の生徒が出口へ殺到する。
その中で。
「――!」
轟焦凍が一歩踏み出した。
次の瞬間
――パキィィン!
床が一瞬で凍りつく。
「うわあああ!」
生徒たちの足が止まる。
轟だけが、そのまま滑るように前へ進んでいく。
「速ぇ!」
「轟が抜けた!」
しかし…
「甘い!」
上空から生徒が飛び越える。
「俺も行くぞ!」
さらに別の生徒が跳躍する。
空中を移動する者、個性を使って出口を突破する者。
さすがは雄英、一瞬で集団がばらけていく。
彼女はその混乱の中で、無理に前へ出なかった。
人の流れを見る。
右、左、上、
一つ、二つの出口付近にできた僅かな隙間。
「……今」
身体を滑り込ませる。
誰ともぶつからない。
個性も使わない。
ただ、人の動きを読んで抜ける。
「……よし」
外へ出た。
目の前に現れたものを見て、彼女の目が少しだけ細くなった。
巨大な影。
「ロボ・インフェルノだァァァ!!」
プレゼント・マイクの絶叫。
巨大な緑色のロボットが、コース上に立ちはだかる。
入試試験で緑谷が戦った、あの巨大ロボ。