第13章 ヒーロー仮免試験
彼女は物間の返事を待たず、クラスメイトたちの方へ戻る。
「行こう、みんな」
「お、おう!」
切島が頷き、瀬呂も口元に笑みを浮かべた。
「いやぁ……言うねぇ」
「ほんと。あんなに静かなのに、めちゃくちゃ刺さるんだけど……」
上鳴が感心したように呟く。
「物間、完全に固まってたじゃん」
「ちょっと、聞こえるって!」
芦戸が笑いをこらえながら、上鳴の腕を軽く叩いた。
彼女はそんなクラスメイトたちのやり取りに、小さく笑みを浮かべる。
けれど、その隣に並んだ轟が、ふと口を開いた。
「……さっきは、ありがとう」
「どういたしまして」
彼女は穏やかに答えた。
「でも、次は自分で言い返してもいいんだよ?」
「……分かってる」
轟は少しだけ気まずそうに視線を逸らした。
「ただ、あいつの言うことにも、一理あると思った」
「そうだね。試験に落ちたことは、反省する必要があるかもしれない」
彼女は否定しなかった。
「でも、それと君自身の価値は別でしょう?」
轟が、ゆっくりと彼女を見た。
「一度の失敗で、今まで積み重ねてきた努力までなくなるわけじゃないよ」
彼女はそう言って、柔らかく微笑んだ。
「三か月後、見返してあげればいいんじゃない?」
轟は一瞬目を見開き、それから、ほんの少し口元を緩めた。
「ああ。そうする」
その返事を聞き、彼女も満足そうに頷いた。
廊下の先では、B組の生徒たちがまだ何やら話している。
物間は悔しそうに彼女たちの背中を見送っていたが、やがて顔を背けた。
A組の生徒たちは、そんな彼を振り返ることなく、校舎の奥へと進んでいく。
彼女はいつものように、クラスメイトたちの輪の中にいた。
けれど、その胸の奥には、先ほどの怒りがまだわずかに残っていた。
誰かが努力してきた時間を、結果だけで否定すること。
誰かが失敗した瞬間を、笑いものにすること。
彼女は、そういう人間を許せなかった。
それが、かつての自分自身を見ているような気がしたからなのか。
それとも、必死に前へ進もうとする人の姿を、誰よりも知っているからなのか。
彼女自身にも、まだはっきりとは分からなかった。