第4章 雄英体育祭編
「おい」
隣から、低い声が飛んできた。
彼女が顔を向ける。
爆豪が、すでに臨戦態勢と言わんばかりの鋭い目をしている。
「昨日言ったこと、覚えてんだろうな」
「?」
「俺と当たったら、手ぇ抜くんじゃねぇぞ!!」
彼女は一瞬、彼の目を見る。
そこにあったのは敵意ではない、純粋な興味。
自分と戦いたいという、分かりやすいほど真っ直ぐな欲求だった。
(……本当に、分かりやすい人)
公安の世界では、誰もが本音を隠す。
笑顔の裏には思惑があり、親切の裏には必ず目的がある。
けれど、彼は違う。
強い相手と戦いたい。
ただ、それだけ。
そんな単純な感情を、隠そうともしない。
彼女は思わず、小さく笑った。
「私は、できるだけ目立ちたくないんだけど」
「知るか」
即答だった。
「だったら、俺の前から逃げんな」
「……ふふ」
彼女は楽しそうに目を細める。
「どうかな」
「テメェ……」
爆豪の眉が跳ね上がる。
その反応すら、どこか面白い。
だが――
「さあッ! 一年生諸君!!」
プレゼント・マイクの声がスタジアム中に響き渡った。
「第一種目はァァァ――!!」
観客席がざわめく。
「障害物競走だァァァァァ!!」
大歓声。
彼女は前を向いた。
視界に入るコース、巨大な障害物、その先に配置された地形、参加者の人数、それぞれの立ち位置、個性の種類、一瞬で情報を拾っていく。
(なるほど……)
彼女の目が静かに動く。
最短ルート。
混戦になる地点。
個性が集中する場所。
そして、誰が、誰を狙っているのか。
公安で培った観察眼が、自然と働いていく。
彼女はふっと息を吐いた。
(……今日は、雄英の生徒でもあるんだから)
任務だけに囚われる必要はない。
ここには、同じ一年生として参加している。
だったら少しくらい、この場を楽しんでもいい。