第4章 雄英体育祭編
彼女は少し離れたところから、そのやり取りを眺めていた。
そして、目を細める。
(……高校生って)
轟も、緑谷も、自分の力を信じて、一番を目指している。
駆け引きもない、裏もない。ただ、真正面から自分の力をぶつけようとしている。
(なんで、こんなに眩しいんだろう……)
公安では、相手の思惑を読むことが仕事になるが、ここにいる人たちは、強くなりたい、勝ちたい、一番になりたい、その気持ちを、隠そうともしない。
(……あ)
彼女はふと思う。
(私も、立場は同じなんだ)
自分は雄英高校一年生、体育祭の参加者、だったら、少しくらい、この眩しさの中にいてもいいのかもしれない。
そう思った、その時だった。
「……さとう」
轟の声がした。
彼女が顔を向ける。
轟は、静かに彼女を見ていた。
敵意ではない。
値踏みするような視線でもない。
むしろ、USJで見た彼女の戦いを思い返しているような目だった。
「俺は、正直……あんたの強さがどこまであるのか、まだ分からねぇ」
「……」
彼女は黙って轟を見る。
「USJで見た個性もそうだ」
轟は続ける。
「まだ、全部を見せてねぇだろ」
その言葉に、彼女の目が僅かに細くなる。
見抜かれている。
けれど、轟の声には追及するような響きはなかった。
ただ――純粋な興味と、敬意。
「だからこそ、一度ちゃんと勝負してみたい」
轟の目が真っ直ぐ彼女を捉える。
「この体育祭で、俺と勝負してくれ」
周囲がざわめいた。
「おいおい……」
上鳴が二人を交互に見る。
「おもちちゃん、めちゃくちゃ強いのは分かるけどさ……」
轟は上鳴の言葉を遮るように言った。
「強いから、頼んでる」
「……!」
上鳴が黙る。
轟は彼女から目を逸らさない。
「女だからとか、関係ねぇ」
「……」
「俺が今まで見た中でも、あんたはかなり強いと思ってる」
その言葉に、彼女は少し驚いた。
轟がここまで率直に誰かを評価すること自体、珍しい。
「だから、俺も自分の力をぶつけてみたい」
それは敵意ではなく、自分より強いかもしれない相手への――挑戦。
そして、その強さを認めているからこそ生まれる敬意だった。