第4章 雄英体育祭編
爆豪の動きが止まった。
「…………は?」
一瞬、本当に、一瞬だけ。
頭が真っ白になった。
何だ、今の?
何で、こいつ笑った?
しかも、俺に?
脳が答えを出すより先に、身体が反応した。
ずるっ
「うおっ!?」
椅子の脚が滑る。
爆豪の身体が大きく傾いた。
「ちょ――」
ガタンッ!!
盛大な音を立てて、爆豪が椅子からずり落ちた。
教室が静まる。
数秒、爆豪は床に手をついたまま固まっていた。耳まで真っ赤だった。
「……爆豪?」
誰かが恐る恐る声をかける。
「…………」
「大丈夫?」
「うるせぇ!!」
爆豪が勢いよく立ち上がる。
顔は真っ赤で、目は泳いでいる。
いつもの威圧感が、ほんの一瞬だけ完全に吹き飛んでいた。
「てめぇ!!」
爆豪が彼女を指差す。
「なんて顔しやがる!!」
「……顔?」
彼女はきょとんとする。
「普通に笑っただけだけど」
「普通じゃねぇだろうが!!」
「そう?」
「っ//////!!!」
声が裏返った。
「何なんだよ、その……!」
言葉が続かない。
可愛い、綺麗、そんな単語を、爆豪は頭の中から必死に追い出す。
そもそも爆豪は、女子にあんなふうに真正面から笑いかけられた経験など、ほとんどない。
ましてや、さっきまで戦闘相手として見ていた女から、突然あんな笑顔を向けられるなんて想定すらしていない。
戦闘ならいくらでも対応できる。
爆発の軌道、相手の間合い、死角、回避、反撃、全部、考えられる。
なのに、笑顔一つで、何も考えられなくなった。
「……クソッ」
爆豪は顔を背ける。
耳から首筋まで赤い。
それを見た彼女は、ぱちぱちと瞬く。
そこで初めて気づく。
もしかして、爆豪くん照れてる?
彼女の目が少しだけ丸くなる。
「爆豪くんって、意外と分かりやすいね」
「ッ!!」
「……だって顔、真っ赤」
「うるせぇぇぇ!!」
爆豪の掌から、パァンッ!!と小さな爆発が弾けた。
「笑うんじゃねぇ!!」
教室に響き渡る怒鳴り声。
彼女は怒るどころか、ますます楽しそうに笑っていた。
爆豪はそんな彼女を見て、また一瞬だけ固まる。
「…………」
――やっぱり。
この女。
思っていたより、ずっと厄介だ。個性だけじゃない。
戦闘以外のところまで、予想がつかない。
爆豪は顔を逸らしながら、乱暴に頭を掻いた。