第3章 USJ襲撃事件編
「普通じゃないってば!」
芦戸が即答する。
「それ、恋愛相談というよりは人物調査に近いですわね!」
と、八百万が冷静に分析する。
「ふふっ」
彼女は思わず笑う。
けれど、その笑い方の奥には、公安で染みついた習慣があった。
人を見る、声の揺れを見る、視線を見る、立ち位置を見る。
戦闘なら、癖、間合い、判断速度、視野。
日常なら、誰に心を許し、誰に警戒し、何をされた時に感情が動くのか。
それを彼女は無意識に拾ってしまう。
だからこそ、二人のこともよく分かっていた。
耳郎がニヤリと笑う。
「そんなに細かく分析できるってことはさ」
「?」
「あんたも結構、二人のこと見てるんじゃない?」
「……」
彼女が止まる。
「……クラスメイトだから」
「またそれ!」
芦戸が爆笑する。
「じゃあ、最後に一つだけ!」
「何?」
「轟と爆豪、男として見るならどっちが好み?」
「…ぇ~」
彼女は二人の顔を思い浮かべた。
静かで、内側に熱を秘めた轟。
激しく、真っ直ぐで、不器用な爆豪。
「……どちらも、それぞれ良さがあると思うよ」
「「うわぁ、逃げた!」」
「秘密ってことね。ミステリアスだわ」
「そういうことにしておこう!」
女子たちが一斉に笑う。
彼女も笑った。
ただ、その質問に答えるまでのほんの一瞬。
彼女の視線だけが、ほんの少し遠くへ向いていた。
公安では、人の感情を読むことも、言葉の裏を探ることも仕事だった。
けれど今は違う。
誰かの秘密を暴く必要もない。
ただ、友達の恋を面白がって、自分の恋は、少しだけ秘密にして。
そんな他愛のない時間が、たまらなく心地よかった。
そして彼女の前には、すっかり冷めかけたホットコーヒー。
その横で、女子会はまだまだ終わりそうにない。