第16章 雄英文化祭編
そして、ふと一人の人物に視線を向けた。
「……耳郎!」
「えっ?」
名前を呼ばれた耳郎が、驚いたように顔を上げる。
「音楽と言えば耳郎の楽器じゃね!?」
「ま、まあ……そうだけど」
突然、クラス中の視線が集まったことで、耳郎は落ち着かなさそうに頬を掻いた。
「じゃあ、耳郎が曲を作ればいいんじゃん!?お前、何でもできそうじゃん!ギターとかも弾けるし!」
「いや、ちょっと待って」
耳郎は慌てて両手を振った。
「私の趣味って、別にヒーロー活動に根差したものじゃないし……。それに、文化祭の出し物で演奏するなんて、そんな大それたこと……」
言いながら、彼女は少しずつ視線を落としていった。
音楽は好きだ。
楽器を弾くことも、曲を作ることも。
けれど、それはあくまで自分の好きなことだった。
ヒーローを目指して雄英に入学した自分が、クラスの出し物で音楽を担当する。
それが本当に、自分にふさわしい役割なのだろうか。
そんな迷いが、彼女の表情に浮かんでいた。
「えー、いいじゃん!」
上鳴が食い下がる。
「俺、耳郎の演奏、聴いてみたいんだけど!」
「そうそう!」
口田も、普段の控えめな様子からは想像できないほど、しっかりと頷いた。
「……!」
耳郎が目を見開く。
「僕も、耳郎さんの音楽を聴いてみたい」
口田は少し恥ずかしそうにしながらも、まっすぐ彼女を見つめていた。
「それに、みんなで一つのものを作るんだろ?だったら、耳郎の得意なことを活かせたら、すごくいいと思う」
「……口田」
耳郎は言葉を失った。
「趣味がヒーロー活動に直結しているかどうかは、関係ないと思うぞ!」
飯田が力強く言った。
「文化祭は、我々がヒーローとしての能力を競う場ではない。各々の得意分野を持ち寄り、協力して一つのものを作り上げる場だ!」
「そうそう!耳郎の音楽があれば、絶対に楽しいって!」
芦戸が身を乗り出す。
「私、耳郎が歌ってるところも見てみたい!」
「えっ!?いや、歌は……!」
耳郎の頬が、みるみる赤くなっていく。