第16章 雄英文化祭編
「いいじゃん、歌おうぜ!」
「上鳴、あんたはちょっと黙ってて!」
「何でだよ!?」
「何でもよ!!」
いつもの調子で言い返す耳郎だったが、その耳は赤いままだった。
クラスメイトたちは、そんな彼女を急かすことなく、それぞれの思いを伝えていく。
「耳郎の音楽、絶対かっこいいと思う!」
「曲を作るなら、必要な機材はサポート科に相談できるかもしれないな」
「振り付けと曲が合えば、見栄えも良くなるはずだ!」
「俺、音楽に詳しくねぇけど、耳郎が作った曲なら、全力で踊るぜ!」
次々に向けられる言葉。
自分の好きなことを、クラスメイトたちが必要としてくれている。
そのことが、耳郎の心を少しずつ動かしていた。
「…………」
彼女は俯き、指先をぎゅっと握りしめた。
やがて、照れくさそうに顔を上げる。
「……ここまで言われて、断るのはロックじゃないよね」
小さな声だった。
けれど、そこには確かな決意があった。
「……やるなら、ちゃんとやるから」
一瞬の沈黙。
次の瞬間。
「「「やったーーー!!」」」
リビングが歓声に包まれた。
「耳郎、ありがとな!」
上鳴が満面の笑みで親指を立てる。
「いや、まだ何も決まってないから!」
耳郎は慌てて釘を刺したが、その口元には隠しきれない笑みが浮かんでいた。
「曲も振り付けも、これからみんなで考えるんだからね!」
「おう!もちろん!」
上鳴は力強く頷いた。
そのやり取りを、少し離れたソファから見守っていたおもちは、自然と頬を緩めていた。
いい光景だと思った。
自分の好きなことに自信が持てず、遠慮していた耳郎。
そんな彼女に、クラスメイトたちが次々と手を差し伸べる。
誰か一人の得意なことを、みんなで支えて、みんなのものにしていく。
任務の世界では、能力の有用性や成果が優先されることが多かった。
けれど、ここでは違う。
好きだから。
聴いてみたいから。
一緒にやりたいから。
そんな、素直な気持ちが人を動かしている。
そのことが、彼女にはとても微笑ましかった。