第16章 雄英文化祭編
「デスマッチって……。かっちゃんらしいというか……」
緑谷は苦笑いを浮かべる。
「お前、文化祭を何だと思ってんだよ!」
切島が笑いながら爆豪の肩を叩いた。
「うるせぇ!他の案がぬるいんだよ!!」
「ぬるいとかそういう問題じゃないから!」
芦戸が両手を振る。
「せっかくの文化祭なのに、何で命がけの勝負をしなきゃいけないの!?」
「命がけとは言ってねぇだろうが!」
「言葉の問題じゃないわよ!」
その騒ぎを眺めながら、おもちは頬杖をついたまま、小さく笑った。
本当に、賑やかなクラスだ。
公安の任務では、誰かの言葉一つ、視線一つにも意味があるかどうかを考えなければならない。
けれど、ここでは違う。
誰かが突拍子もないことを言い、誰かがすぐに突っ込み、誰かが笑う。
くだらないことで言い争って、意見がまとまらなくて、それでも全員が楽しそうにしている。
そんな光景が、今の彼女には少し眩しかった。
「……おもちは、何かやりたいことないのか?」
ふいに、隣から声がした。
顔を向けると、轟がこちらを見ていた。
「私?」
「そう。さっきから、みんなの案を聞いて笑ってるだけだから」
「うーん……」
彼女は少し考えた。
メイド喫茶なら、過去の経験を活かして、それらしく振る舞うことはできるだろう。
接客も、所作も、相手の様子を観察することも、任務で身につけてきたものだ。
けれど、せっかくの文化祭なのだから、公安での経験とは関係のないことをしてみたい気もした。
「みんなで楽しめるものなら、何でもいいかな」
結局、彼女はそう答えた。
「……お前らしいな」
轟が小さく笑う。
そのやり取りを、少し離れた席から爆豪が見ていた。
――また轟かよ。
眉間に皺が寄る。
別に、轟が話しかけること自体は問題ない。
問題は、あいつが当たり前のように彼女の隣に来て、自然に会話をしていることだ。
昨日の夕食の一件以来、爆豪は轟の距離感が気になって仕方がなかった。
しかし、ここで文句を言えば、また上鳴たちに何か言われるのは目に見えている。