第16章 雄英文化祭編
「じゃあ、早速!」
勢いよく手を挙げたのは、上鳴だった。
「メイド喫茶しようぜ!!」
「…………」
一瞬、クラスが静まり返った。
「……メイド喫茶?」
耳郎が片眉を上げる。
「そう!メイド喫茶!」
上鳴は両手を広げ、まるで自分の未来が見えているかのような顔で力説した。
「女子はメイド服!男子は執事服!可愛い女子たちが『お帰りなさいませ、ご主人様♡』って出迎えてくれて、俺たちは優雅に接客をする!完璧じゃね!?」
「いや、お前の願望がだだ漏れなんだけど」
瀬呂が冷静に指摘する。
「いいじゃんかよ!せっかくの文化祭だぞ!?普段とは違う格好をして、普段とは違う自分になれるんだぞ!?」
「お前、女子のメイド服が見たいだけだろ」
切島が笑いながら突っ込む。
「それもある!!」
「認めんのかよ!」
教室に笑い声が広がった。
そのやり取りを聞きながら、おもちは頬杖をついて、ふと遠い記憶を思い返していた。
――メイド、か。
数年前、公安の任務で、とある資産家の屋敷に潜入したことがあった。
表向きは、屋敷に新しく雇われた住み込みのメイド。
裏では、屋敷の主人が関わっていると疑われていた違法取引の証拠を集めるための内偵調査だった。
あのときは、慣れない家事の仕事をこなしながら、屋敷の使用人たちの会話に耳を傾け、主人の行動を観察し、夜中にこっそり書斎へ忍び込んで資料を調べたものだ。
何より厄介だったのは、屋敷の坊ちゃんだった。
彼女にすっかり懐いてしまい、姿を見つけるたびに後をついてくる。仕事をしていれば隣に座り、休憩時間になれば一緒に遊ぼうとせがまれ、しまいには「お嫁さんになって!」などと言い出す始末。
任務そのものより、坊ちゃんをどうやって使用人たちの目から引き離すかに苦労した記憶がある。
……あの頃は、本当に大変だったなぁ。
おもちは、どこか他人事のように懐かしんだ。
今となっては、笑い話のようなものだ。
もちろん、そんな経験を雄英のクラスメイトたちに話すつもりはない。
彼女は小さく笑うと、再び教室の喧騒に意識を戻した。
「……おい」
そのとき、隣の席から低い声が聞こえた。
爆豪だった。