第15章 死穢八齋會
「俺らがあんだけ苦労してんのに、てめぇはもう現場で何年もやってきたってことか」
「そういうことになるわね」
「……チッ」
納得したような、していないような。
爆豪は舌打ちしたが、その目には驚きとともに、彼女への新たな理解が浮かんでいた。
「それで、死穢八斎會の件も……」
緑谷の声が少し低くなる。
「うん。私の個性が、諜報活動に向いているから」
おもちは両手を膝の上に重ねた。
「私の個性は、学校では『不可侵領域』と説明しているけれど、本来の名前は『絶対支配』。対象の行動や個性、周囲の環境などに干渉し、支配することができる」
「……個性そのものを?」
「対象や条件によるけれどね。何でも無制限にできるわけではないわ。ただ、使い方次第では、相手に気づかれずに状況を変えたり、危険を無力化したりすることができる」
緑谷は、自然とノートを取り出しかけた手を止めた。
今は分析するためではなく、彼女の話を聞くためにここにいるのだ。
「死穢八斎會では、その能力を使って内部の情報を集めていたの。敵に警戒されず、組織の人間として振る舞いながらね」
「……ステラ、か」
爆豪が確かめるように呟いた。
「ええ。潜入中のコードネームよ」
「ファットガムのところで起きたことも、全部任務だったってことか」
「そうね」
一瞬、彼女の表情が揺れた。
「ただ、任務だからといって、何も感じなかったわけじゃない。助けられる人がいるなら助けたいと思ったし、守りたいと思った人もいたわ」
緑谷は、あのときのことを思い出した。
エリを連れて逃げようとしたとき、彼女は確かに自分たちの前にいた。
敵の一員だと思っていた女性。
けれど、彼女はエリを自分のほうへ導いていた。
そして、自分の蹴りを受けながらも、エリが逃げるための道を作った。
「あのとき……僕が蹴った右腕……」
緑谷は、彼女の右腕へと視線を落とした。
「やっぱり、あれは……」
「ええ。あなたの蹴りを受けたときのものよ」
おもちは、右腕をそっと撫でた。
「エリちゃんをあなたのところへ向かわせたかったの。あなたなら、きっと助けてくれると思ったから」
「……っ」
緑谷の顔が歪んだ。