第15章 死穢八齋會
泣くな、とは言いたくなかった。
泣いていい、とも、うまく言えそうになかった。
ただ、抱きしめたかった。
震えている肩を抱き寄せて、もう無理に笑わなくていいと伝えたかった。
誰にも見せなくていい顔を、自分の前では隠さなくていいと。
そのくらい、言ってやりたかった。
伸ばしかけた手が、彼女の肩へ届く直前。
「……よく頑張ったな」
オールマイトの声がした。
次の瞬間、彼は彼女をそっと腕の中へ閉じ込めていた。
「……っ」
彼女の身体が、わずかに強張る。
だが、オールマイトは構わず、その背中を優しく包み込んだ。
「もういい。今は、無理に笑わなくていいんだ」
大きな手が、彼女の背中をゆっくりと撫でる。
「君は、ずっと頑張ってきたんだろう。誰にも言えないことを抱えて、それでも一人で立ち続けてきた。……もう少しだけ、誰かに甘えてもいいんだ」
彼女の顔が、オールマイトの胸元に埋まった。
それを合図にしたかのように、堰を切ったように涙が溢れ出す。
「……っ、叔父さん……」
「ああ。ここにいるよ」
「……私……」
「分かっている。今は、何も言わなくていい」
オールマイトは、彼女を抱きしめる腕に少しだけ力を込めた。
その姿を見て。
爆豪は、盛大に舌打ちした。
「……チッ」
遅かった。
ほんの一瞬、躊躇した。
その隙に、叔父に先を越された。
「かっちゃん……」
緑谷が小声で呼ぶ。
「うるせぇ」
爆豪は睨み返した。
だが、その目は彼女から離れなかった。
悔しい。
とんでもなく悔しい。
自分が先に抱きしめたかった。
あの震える肩を、自分の腕の中に閉じ込めたかった。
けれど、目の前で彼女を抱きしめているのは、彼女の叔父だった。
相手がオールマイトでは、文句を言うにも限度がある。
……いや。
それでも、腹は立つ。
爆豪は眉間に深い皺を刻みながら、彼女を見つめ続けた。
彼女が泣いている。
自分たちの前で。
今まで誰にも見せなかった顔を、さらけ出している。
その事実が、胸の奥を熱くした。